第1回目

お題「さあさ皆さんお立ち会い!」/マフラー

「さあさ皆さんお立ち合い! 世にも珍しい、ファイアオパールの瞳を持つブラックドラゴンの子どもだよ!」
 自身の恰好そのものも、相当珍しいとは考えないのだろうか。
 淡い青翠の癖っ毛を後ろに流して一つに括り、左右で色の違う瞳をした子どもが声を張り上げている。
 子どもの背後には、檻に入れられた黒銀の小柄なドラゴンがうずくまっており、確かにその瞳は篝火のように朱色に橙色に赤色にと複雑に色合いを変えていた。
 しかし、ドラゴンの子どもを攫ってくるとは、相当な手練れか強運の持ち主に違いない。
 子どもを攫うにせよ、卵を攫うにせよ、ドラゴンの巣から宝を盗むのは並大抵のことではあるまいに。
 道行く者たちの大半は、興味と好奇心か檻の中を覗き込むものの、ドラゴンと目が合うと大慌てで去っていく。
 誰も、怒り狂ったドラゴン、ましてやその親など相手にしたくないのだろう。
 中には、ドラゴンと目が合ってもそのまま檻に近づく猛者もいる。
 その殆どが武装しているところを見るに、腕に自信があるのだろうか。
 それともまさか、ドラゴンを手懐ける自信か?
 竜種は基本的にプライドが高いのが常識だ。
 現に、檻の中に囚われているとはいえ、黒銀のドラゴンの紅い瞳は全く輝きを失っていない。
 これは、隙あらば逃げ出そうと……あわよくば逆襲しようと考えてるとみて良いだろう。
 唸り声をあげ、ブレスの前兆にも似た吐息を漏らし、近づく者が出るたびに威嚇態勢に入っている。
 それにしても、もう雪の降ろうかというこの季節。
 まだ成体には遠い子ドラゴンが、冷たい檻の中で調子を崩さないとは思えない。
 人混みから数歩抜け出して檻に近づくと、子ドラゴンは戸惑ったように瞳を揺らがせた。
 それもそうか。
 よもやマフラーを首から外しながら檻に近づく者が、今までいたとは思えない。
「やあ、店主」
 檻の前に立つヘテロクロミアの子供に声を掛けると、これまたぽかんと口を開けて、間もなく慌てたようにそれを閉じる。
「な、なに? お兄ちゃんもドラゴンに興味があるの?」
「そうとも言えるし、違うとも言えるな。檻に手を入れても大丈夫か?」
「へ?」
 今度こそ目を点にした店主……よく見れば、その左右で色の異なる瞳は瞳孔の形すら異なり、その本性を隠しきれていない。
「噛まれても知らないよ?」
「ふふ、そうなったときはそうなったときだろう?」
 檻に腕を入れ、先程まで自分のものだった白いマフラーを巻いてやる間、子ドラゴンは意外なほど大人しくしていた。
「おまえは黒いから、白が良く映えるな」
 笑いかけてやると、その瞳がさっと薔薇色に染まる。
 うむ、今日初めて見る色だ。
「お兄ちゃん、変わり者って言われない?」
 店主は呆れ顔だが、正直それはどうでもいい。
「寒そうだったからな」
 それに、打算がないわけでもない。
 手をひらひらと振りながらざわめく場を後にした。

 なあ、竜種はプライドが高いのが常識だが。
 その分、受けた恩は返す主義の個体が多いんだぜ?
 ついでに、あのドラゴンは、確かに店主の言う通り、まだ子どもだった。
 向けられる感情に敏感に反応して、鏡のように返す程度には。

 数刻後、街道を歩いていたら、案の定。
 背後から、まじないの編み込まれた白いマフラーを巻いた黒銀の髪の少年が、息せき切って走ってきた。
「あるじさま!」
 舌足らずに言って笑った少年は、紅い瞳を宝石のように篝火のように煌かせていた。


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