ふるり、と、アデルが身体を震わせた。
はふ、と吐いた息が、幽かに白く映った、ような気もする。
「寒くなってきたねぇ」
思わず言えば、アデルはこてり、と首を傾げた。
「さむ? ですかぁ?」
あああ、思わず頭を抱えたくなる。
そう言えば、そんな問題もあった。
やっと、やっとのことで、人間らしい反応を教え込めそうなところまで辿り着いたけれど、教えることがこんなところにも転がっていた。
この前も、苦労したのに。
好きな食べ物とか、嫌いな食べ物とか、言わせるのにどれだけ難儀したことか。
毒は、食べ物の内には入らない!
力説したのを思い出したら、ちょっと頭がクラクラしてきた。
「冷たいとか、熱いとか、それは解るよね?」
「う、う~ん?」
そこからか。
そこからなのか。
「んもぅ、アデルが今持ってる、その羽根ペン! 熱いか冷たいかくらいは言えるでしょ!!」
「……え、ええっとぉ」
思わず項垂れたくなったボクは悪くない。
きっと、ボクの所為じゃない。
だって、羽根ペンを握る左手は、すっかりかじかんでいるようにしか見えない。
紅葉のように真っ赤で、って、紅葉って言っても伝わらないか……。
「た、多分、冷たい……ですぅ?」
「じゃあ、その羽根ペンは、どーして冷たくなってるのさ」
「ど、どうして……って。それは、えーと、ええぇと……」
数秒間、生暖かい目で見守っていたら、アデルはようやく、羽根ペンを放り出してポムっと手を打った。
「周りが『さむい』からですかぁ!」
「なんかちょっと違う気もするけど、まぁそんな感じだよ……」
うん、疲れた。
「アデル? フェイ?」
微妙にちょうどいいタイミングで、奥からリュージュがやってきた。
「これが重くないか、確かめて欲しいのだが」
ぼふっと肩に乗せられたのは、これは……。
「重くはないけど……羽根布団?」
「うむ。この前、いっぱい抜かれたからな。羽根」
「ですねぇ。誰かさんの所為で」
アデルもリュージュもジト目で見てくるけど、そんなに見つめられたら照れちゃうじゃないか。
「本当に、寒くなってきた」
リュージュもぼやいているので、やっぱり、今は寒いはず。
「そうそう、聞いてよリュージュ!」
「……なんだ?」
「アデルがね、寒いが解らないって言うんだよ!!」
やっぱり、深刻な問題だよね。
リュージュの眉間の皴も、増えた。
「アデル」
リュージュに呼びかけられて、アデルはちょっと泣きそうな雰囲気になった。
「……寒かろうが、寒くなかろうが、それで自分に何ができるって言うんですぅ……?」
根本的な問題に深く根差した答えは予想してなかったわけでもないけれど、本気で根深いなと、溜息を吐きたくなる。
「あのねぇ、寒かったら、寒いねって言ったら」
ぐっと抱き寄せ、翼を引っ張り出して羽根布団と一緒にくるんでやったら、アデルはワタワタと逃げようとする。
勿論、逃がしてなんかやらない訳だけど。
「こうやって、温め合えるでしょ?」