眼前に広がる一面の黄金色。
「実るほど頭が下がる稲穂かな……なんてね」
そう言って、両腕を広げてクルリクルリと回る君の袖がふわりふわりと風に乗るのが何となく眩しくて、知らぬ間に目を細めていたらしい。
「ん?」
舞うのを止めてしまい、腰に手を当てる動作を、勿体なく思う。
「大丈夫? 目にゴミでも入った?」
首を振って否定したのに、君の表情は天候とは対照的に、晴れない。
「ホントかな~?」
ずいっと間近に迫る君の瞳がゆっくりと瞬きするのが、何だか別世界の出来事に見えた。
漆黒の瞳は周囲の色をよく映す。
周囲に広がる黄金色と青色の美しい対比……の中に、点々と散る最後の三原色。
「……ねぇ、あなた、赤くない?」
タイミング良く考えていた色が聞こえて、ぎょっと視界を明滅させたら、頬の両側にヒンヤリとした感触。
「もうっ、目を逸らさないの」
いや、全力で離れたいです、とはさすがに口には出せないけれど。
うろうろと、おろおろと。
視線の逃げ場を求めていたら、赤の理由が目に留まった。
深紅の、彼岸花だ。
その色彩は、あの色よりはもっと鮮やかなものだけれど、それでも吸い寄せられるかのような目眩がして……
「ねぇ?」
割り込んできた、声。
はっと、ぼやけていた焦点を合わせる。
「彼岸花なんかに浮気しないで」
膨れっ面の君。
わかってる。
わかっているよ。
「おいていかないで。もう、二度と、ううん、まだまだ」
それでもまだくらくらとして反応を返せずにいたら、君はスッと表情を消してしまった。
その瞳に映るのは、あくまでも周囲の色ばかり。
「私から離れないで」
どうやら、自分はまだ。
彼方には、いけないようだ。