髪と、耳を撫でる手つきが心地いい。
その手に触れられるならいっそがしがしとやってくれても構わないんだけどさ、さすがにそれはアンタには似合わないか。
とにかく、アンタの手は仲間内のどんな毛づくろいよりも極上だよ。
ああ、撫でられるだけで毛の一本一本が絹になっちまいそう。
「アンタさあ、何か動物と戯れたりとかしてた?」
「いや、特には……何故だ?」
手つきが上手すぎるからだよ。
どこで覚えたんだい。
なぁんて、ちょっと艶っぽくてアンタには刺激が強いかねぇ。
アタイと混ざったせいで、毛づくろいまで覚えちまったとか?
それはそれで好都合だけど。
朝の背伸びのように体を伸ばして胸の辺りに頭を擦りつけてねだる。
すると撫でていた手が止まり、困ったようにその胸が後ずさる。
やり過ぎたか、と少しの後悔ともどかしさと一緒に綺麗な顔を見上げる。
獣人以外の毛づくろいってどうすんだ?
あ、こうか?
白銀色の糸を一房、手に取った。
そっと、目の前の清流のような流れに手を浸した。
表面の光の反射もさることながら、奥までほとんど抵抗なく指がすり抜けるのは、いったい、普段どんな手入れをしているんだろうねぇ?
思った以上に心地よい触り心地についウットリとしてしまった。
アタイが首元まで爪を伸ばしているのに、アンタときたら無防備にその首筋を曝け出しているばかりか、目を伏せて吐息すら潜めてきた。
震える細い息は、アタイを興奮させて仕方がない。
いいのかい?
このまま、喰らいついてしまうかもよ?
フェリス族の鋭利な爪。
危険。
以前の私ならそう判断しただろう。
だが今はその固い爪、鋭さの割に柔らかで小さな指、その奥で煌めく大きな瞳、全てが触れてくる瞬間を全身で切望している。
胸が熱い。
息ができない。
情けなく吐き出した吐息と共に、食われても、いいと思った。