「シャーン!」
「シャーンじゃねェエェエエェエ!!」
「いいじゃない、その呼び名でも。」
「そーそ。シャーンでいいと思うわー、ゼニスさん。」
「冗談じゃねぇ!!」

クーラーが効きまくった部屋のドアを開ける。
目の前にシャインが居たからわざとシャーンって読んでやった。

すると案の定シャインは激怒し、キャロルとゼニスはそれをからかった。
その事によって更にシャインの機嫌が悪化する。
いつもの会議風景だ。

今日は1年に6回ある皇帝会議。
各春夏秋冬に1回、正月と盆に1回の計6回が基本。
時々臨時会議もあるそうだけどあたしはまだ経験したことはない。

「……あ。またフローラさん来てない。」
「馬鹿言え!あの人が来たら困る!!」

フローラ。イッシュの皇帝だと知ったのはつい最近の事。
あたしよりも自由が好きで、どこに居るのか足跡が掴めない人だ。
わりと会議には出るようになってるが、会議であの人と遭遇した事は一度もない。
それを言うと、他の皇帝は何故か青ざめる。

何でといつも聞いてみるけど必ずスルーされる。
今日追及しても同じことだ、聞かないで置こう。
そう思った瞬間左肩に温もりを感じた。茶色の手袋が見える。

「私がどうかしたかな?シャーン。」
「ふ、フローラさん?!」

光加減によって黄色にもオレンジにも、ピンクにもなる不思議な色の髪。
少し濁りがある蒼い瞳。
今話題に上がっていたイッシュ皇帝フローラだ。

「そんな事を言うから君はいつまでも病弱なんだよシャーン。」
「うぐ……。」
「一体いつその病は治るのかな。体調管理は上に立つものとして基本……。」
「あっいかわずネチネチネチネチうぜー男だな、オイ」
「…………相変わらず君はチャラチャラしてるね。見苦しいな。」

クーラーがガンガンに効いて涼しい部屋。
それが今は猛烈に寒い。一揆に10℃下がったんじゃなかろうか。

ゼニスが机に肘付いて頭を抱えてる、キャロルは額を押さえた。
シャインはほら見ろと言わんばかりにあたしを睨んでいる。
シャオさんとフローラさんが犬猿の仲とは知ってたけど、ここまで酷いなんて

(フローラさんが来るとシャオさんも一緒に来るんだよ!)
(だからあえて呼び出さなかったわけ?!)
(最悪だわー……極寒会議が始まる……。)
(おまけに会議も脱線するし。私早く帰って別作業したかったのに。)
「そこ。何喋ってるの?」
『すみません!』
「俺の嫁もそこ立ってないでさっさと席付け。会議始まんねーだろ。」
「座ります!」

いつもはシャインが仕切る会議を、フローラさんとシャオさんが仕切る。
初めての経験だし、何よりすっごい寒いし。
他の奴等も居心地が悪そうだ、当たり前だけど。

ダンッと強い音を出してシャオさんが机の上に足を乗せた。
腕を両手に組み、眼が細い。怖い。

「ゼニス。お前からカントー、ジョウト、ホウエン、……イッシュの順に現状報告しろ。」
ゼニスさんから?!あ、すんませんシャオの旦那報告します。」

ゼニスが驚きの声を上げた瞬間黙れと言わんばかりに備え付けのペットボトルを握りつぶした。
それを見て、ゼニスは即座に謝り鞄から書類を出す。
若干それが震えて見えるのは気のせいだろう。気のせいと信じたい。

「あーっと。ようやくギンガ団完全制圧が終了。
ギンガ団ボス、並びに幹部は今だ逃走。見つけ次第報告を頂きたく思います。
またナギサで大規模停電が多発。原因はナギサジムリーダのジム改造のため。
復旧を合わせ被害総額約1億。ナギサジムリーダーには厳重注意をしました。
それ以外は特になし。報告を終わります。」
「いつもナギサだね。そろそろ厳重注意じゃ済まないよ。」
「……もう1年はジムを改造しないよう言います。」
「予算も無限じゃないんだから。次起こしたら多分減らされるよ。」
「はい、すみません……。」

何てギスギスした会議だ。
いつもは悪ふざけた口調のゼニスが敬語。この時点でギスギスしてる。
冷や汗を流してるあいつの姿も初めて見る。

隣からふーっとため息が聞こえた。
あぁ、次はシャーンだったか。

「カントーの現状報告をします。
ジョウト皇帝の協力のお陰でようやくロケット団の被害が軽減。
しかしそれでも被害額は数百万を超えています。
また、様々な諸事情で予算が減額。地方お越しの為の計画を思案中。
手元に計画案が渡ったかと思います。
クチバ周辺にて、大規模の祭りを思案。
警備にはホウエン皇帝と対談で現在ボランティア団体のなった組織を借ります。
また、メインイベントに自分と珠姫の6VS6のバトルを催します。
お暇でしたらこの場の皆様にもメインイベントの参戦をお願いしたく思います。」
「……6VS6……手持ちポケモン一度にか?」
「ダブル・トリプルが主流となった今、普通のバトルじゃ物足りないと思いまして。」
「そうね。私も参戦しようかしら。この日は大丈夫よ。」
「出たいけどこのメインイベントの日は会議が入っちゃってるからなー……。」
「この会議から1週間までに自分まで連絡を下さい。以上報告を終わります。」
「で。この日に体調崩さない自信はあるのか?」
「祭り開催1週間前から、珠姫の担当医である雪弥を借ります。」
「……雪弥が1週間管理するなら大丈夫だな。」

座っていい。シャオさんにそう告げられた後深い息を吐いて椅子に座った。
こういう姿見ると任期が長いんだなって思う。

現状をしっかり把握し、それを打破するにはどうすればいいか。
だから新人皇帝の面倒とか、他地方の兼任とかするんだろうな。
まぁその所為で随分体調崩したって聞くけど。

「では次にジョウトの報告をします。
ジョウトにも被害をもたらしていたロケット団についてはカントーと同様。
被害額も軽減。ですがやはり高額となっています。
予算は削られていませんがこのままでは底を付くのが現状でしょう。
幸いにもジョウトにはポケスロンという競技がございます。
カントーの方では祭りでしたが、ジョウトではポケスロン大会を開催します。
出場者は一般から有名所のチャンピオンなどに掛け合っています。
出場者、入場者、テレビ中継などによりかなりの収入が見込めます。
シャインと同じことを言う事になりますが、お暇でしたら参加をお願いします。」
「コースは決まってるのかな?」
「思案中ですがポケスロン会場と付近にある自然公園も利用する予定です。」
「うん、面白そうだね。華やかだ。現状もよく理解している。」
「有難うございます。以上報告を終わります。」
「ちょっと待った。ジョウトで不審人物いるんじゃなかった?」
「……シャオさんはどう思われましたか?珠姫からお会いしたと聞きましたが。」
「流石お嬢様。その切り替えしにキュンッと来るな。」
「私個人の見解としては、刺し当たって問題はないかと思います。」
「そうだな、俺も彼女については問題ないと思う。報告は終わりでいい。」

不審人物。……ミレイちゃんの事かな。
この会議で問題ないって言われたからこれで動向探られることはないはず。

それに少し安心し、息を吐く。
次は自分の報告だ。面倒だな。

「ホウエン地方の現状報告をします。
お気づきだと思いますが、ここ数ヶ月様々な災害により被害は甚大。
砂漠、大雨、日照り、火山灰。自然の脅威に脅かされています。
先手を打つのが遅れ、民衆に被害が及びました。
現在はアクア団、マグマ団の協力の下災害地の復旧を急いでいます。
また私のパートナーは災害を察知する能力を備えています。
それを元に迅速な復旧作業を行っています。
なお、この災害はセンター報告によれば後1ヶ月で沈下する予定です。
全ての復旧はカントーで開催される祭りまでに終わらせます。
この災害の復旧により、余裕であった財源が底を付きそうな気配があります。
財源確保の為ホウエンでもコンテストバトル大会を実地したく思います。
前の二人も仰っていましたが、私の方にもご協力をお願いしたく思います。」
「素晴らしい企画だね、是非参加したいな。」
「ではこの会議が終わり次第、参加表明お願いします。」
「マグマ団、アクア団については」
「元々自然が好きで馬鹿なグループでしたから。大丈夫でしょう。」
「まぁそれはそうだな。よっし終わりでいい。」

席に着きため息を吐く。
すっごい緊張した。もう二人とも視線で人を殺せるよ。
ポンッと背中を叩かれた。シャインなりの労いだろう。

だが、問題はここからだ。
イッシュの現状報告。すなわち。
シャオさんとフローラさんの全面対決となるわけだ。
その所為かシャインもゼニスもキャロルも表情が硬い。

「次。」
「シャオに言うことは何も無いよ。」

亀裂が走った。
仏頂面だったお互いの表情がゆっくりと笑顔になっていく。
顔は笑ってるが眼は笑っていない、非常に怖い。

「任期は俺の方が上。敬語どうした?」
「親戚に敬語使わないといけないのかな?冗談じゃない。」
「上下関係は大切だろ?」
「じゃぁ私の方が上だね。シャオが敬語使うべきだよ。」

居心地クソ悪いぃいぃいぃい!!!
肩身狭い!縮こまってるしかないよこの状況!!

「女顔の癖に粋がってんじゃねーし。」

ガンッ

シャオさんの言葉が禁句ワードだったのか、苛々を紛らわすために机を蹴り上げた。
その際にも笑顔は崩すことはなく。
……背景に魔王が見える。笑顔なのに、背景に魔王。
元の世界に置いてきた兄を思い出してしまった。

「チャラ男にそんなこと言われたくないな。」
「チャラ……ッ!」
「大体水着の上にジャージって露出狂にも程があるよね。」
「~!緑に赤に黒のスイカカラーに言われたくねーな!!」
「スッ……?!馬鹿の一つ覚えみたいに青が好きな君に言われたくないな!!」


露出狂、スイカカラーに噴出しそうになった所を全力でシャインに止められた。
言われてみれば確かにそうだ。むしろ、もうそれにしか見えない。

多分ここで噴出したらあたしが集中的に怒られてただろう。
噴出すのを抑えてくれたシャインには感謝しなければならない。
そしてその間にもシャオさんとフローラさんはヒートアップしている。

「露出狂!」
「スイカ!」
「大体君はいつもいつも!」
「お前こそ!!」


だけどこんな姿を見ていると、ただ単に同属嫌悪って奴じゃないのかな。
巻き込まれる方は溜まったもんじゃないけどね。





波乱の皇帝会議
(ナルシスト!)
(おかま!!)

(……いつ終わると思う?コレ。終わるまで帰れないよね。)
(まぁ夜中だろうな。)
(あー……もー……ゼニスさん用事あったのにー)
(私の方が用事あるわよ!書類溜まってんのよ!!キーッ!)





*****あとがき*****

ここまで長いのをご観覧有難うございます。
シャオとフローラがいなければわりかしアットホームな会議なんですがね。
今回はシャオとフローラが参戦しましたので。

フローラもシャオがいなければ基本声を荒げることもない。
だけど荒げずにゆっくりとグサッと刺さることを言う。

あと伶さん宅のミレイちゃんお借りしました!
事後報告ですみません;


次はフローラと珠姫の初対面の話し書きたいなぁ。



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