川と幽霊と異世界人。

「やっ、ミレイちゃん。デートしねぇ?」
 シャオが声を掛けた時、ミレイは川辺に座り込んで考え事に夢中になっていた。
「……り、……ン? や、でも……。うーん、幽霊説か……」
「おーい、聞こえてるかー?」
 ミレイが見詰めている川の水面に、すっとミロカロスが顔を出す。
「ん? カントーに、ミロカロス?」
 そのミロカロスは、尻尾を跳ね上げると、ミレイの顔に思いっきり水を跳ね飛ばした。
「ぷにゃあ!? ……ちょ! ルージュ!! 何すんねん!」
 ルージュ、と呼ばれたミロカロスは、水面から持ち上げたままの尻尾でシャオを指す。
 ミレイはグギギ……と音がしそうなぎこちない動きで、シャオを仰いだ。
「え、と。えーと。シャオさん!? お久しぶりです……。すみません、ちょっと思考の海で溺れてたかも、です……」
「謝罪は後で聞くから、取り敢えず顔を拭けば?」
「あい、です……」
 ミレイは鞄からピンクのチェック柄のハンドタオルを出すと、ごしごしと顔を拭いた。ノーメイクなので、その手付きには何の躊躇いもない。
「本当に、すみませんでしたっ!」
「で、何に溺れてたって?」
「えーと、一子相伝と幽霊の実在について……」
「……は?」
 彼女はたまにぶっ飛んだ事を口にするが、今回もまた、かなりぶっ飛んだ事を考えていたらしい。
「シャオさんは、一子相伝の何かって実在すると思いますか?」
「まあ、あるんじゃねーの?」
「ですか。じゃあ、やっぱり、幽霊は実在するんですね!」
 だから、何故そう繋がるのかが分からない。だが幸いにも、ミレイはすぐに続けて言った。
「わたし、前々から、一子相伝って不安定なシステムだなーって考えてたんですよ。こんなに不慮の事故や不慮の病気や何やかやで、老衰で平和に死ねる人少ないのに、一子相伝なんて不安定な事ができるのかって。でも、実際にこっち来たらそういう話はよく聞きますし、それが成り立つのなら、何かの……何て言うのかな、側副路……じゃなくて、抜け道があるのかなって。で、それは伝説ポケモンによる記憶なのか、第三者の介入なのか、いっそ幽霊が実在しているからなのか、ってとこまで考えてですね。でも、一子相伝って事は、他者には洩らせないって事だから、やっぱり幽霊が……」
「はい、ストーップ」
 大体言わんがする所を察したところで、説明を止めさせる。でないと彼女は、もっと脱線して、いつまでもしゃべり続ける事ができるからだ。
「普通、そうすぐに死にそうにない奴選んで、継がせるだろ?」
 普段なら、何かしら反論を聞けば「そうですね」と頷くミレイが、この時は、顔を曇らせ、首を横に振った。
「シャオさん、流石にそれは賛成しかねます……。不慮の事故も、不慮の病気も、見て分かるなら誰も苦労しないです。若くして手遅れの悪性新生物で死んだりとか、ましてや……」
 ミレイは何かを言いかけ、諦めたように、溜息を吐いた。
「うーん、やっぱりわたしが悲観的過ぎるだけかもしれないですね」
「そうそう。人間、そう簡単には死なねーよ」
「……ですよね……。そうだと、信じたいです。あ、暗い話に付き合わせちゃってごめんなさい。何します? 暑いし、そこで涼みません?」
 ミレイは今日は珍しく、明るい色のミニドレスを身に纏っていた。と思ったら、それはパレオだったらしい。
 首の後ろの結び目をほどくと、パレオは一瞬にして大きな布に戻る。それを適当に畳み、上に鞄を置くと、水着姿の彼女はさっさと川に入って、ミロカロスに抱き着いた。
「ルージュ、さっきは怒ってごめんなー……。気付かせてくれてあんがと」
「そのミロカロス、よく育ってるな」
「ルージュは、レベルマックスまで育てましたもん。ミロカロスは育つの早いですよねー」
 何だか凄いような凄くないような事をさらりと言い、ミレイは笑う。
「それがお前の切り札か?」
「え、まさか! ルージュは普段から一緒にいますよ。ね、ルージュ!」
 上機嫌に返事をするミロカロスと、ますます嬉しそうに笑うミレイ。シャオに手の内を明かしている事など、全く気にした様子はない。
 彼女が一子相伝の事を考えていたのは、偶然だろうか。
「涼むのも良いけど、デートしてーなー」
「やぁですねー、シャオさん。デートは彼女とするものですよ、こんな通りすがりのオバサン引っかけちゃいけませんって!」
(……オバサン?)



 勿論、ミレイがそんな事を考えていたのは偶然です。
 例によって例の如く、無断拝借してます、すみません。でも、シャオさんはネタがいっぱいで小説書きたくなるんだ…。



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