「……ん?」
 珠姫を追ってイッシュに来ていたシャオは、街道から少し離れた草むらの奥に、見覚えのある相手を見付けた。
「ミレイちゃん? あれ、あいつもイッシュに来てたのか?」
 シャオが首を傾げたくなるのも無理はない。
 イッシュに来るほんの少し前、シャオはカントーでミレイを見掛け、喋った。
 その時の彼女は、イッシュに行くのにそこまで乗り気でなかったと思うのだ。
『んー……。でも、ポケモン連れていけないんですよね?』
『リィちゃんも、カントー離れるわけにもいかないでしょうし』
 だが、木々の向こうに見える、黒いニットの上着に黒いスカート、黒いハイソックスの少女は、ミレイにそっくりだ。
 取り敢えず声を掛けてみれば分かる事かと、少女に向かって一歩踏み出そうとしたシャオを、引き留める手がある。
「瑠幽。どうした?」
「マスター。『アレ』は……『何』?」
 プルリルの化身はそう言うと、長い髪を一瞬ぶるりと揺らした。
「……『アレ』?」
 瑠幽を振り返り、シャオはその言葉の意味を考える。
 彼女の口ぶりだと、そこにいる少女はまるで……。
 再び視線を向けた時、そこには既に少女の姿はなかった。
 音一つ立てずに、まるで最初からいなかったかのように。





 それは果たして夢だったのだろうか?



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