「……ん?」
 ぼんやりと意識が戻ってきて、俺は、はて、これはどういう状況だろうと思った。

 まだらに日差しの降り注ぐ木陰だ。
 額の上や頭の周り、腋にはタオルで包まれた冷たい何かがあてがわれている。
 そして、ミロカロスに覗き込まれている気がするのは……。

 ミロカロスは俺の額に乗せられたタオルを咥えると、長い胴体を捻って背後にいる少女に渡した。

「良かった、シャインさん死んでなかった!」
「おい勝手に人を殺すな」

 脊髄反射的にツッコミを入れて、ああ倒れたんだっけと思い出す。
 朝から暑かった、非常に暑かった。
 でも、ここ数日雨なんて降ってないから、木の実の世話に来て……。

 雪弥に知られたら殺されそうだ。

 そんな事を考えていたら、ミロカロスのトレーナーは回収したタオルを広げていた。
「ルージュ、念の為にもう一回、冷凍ビーム激弱でよろしく」

 ミロカロスの持ち主であるこの少女はミレイ。
 最近、ジョウトからカントーにやってきて、どういう訳だが居着きかけている。
 本当は勘弁してもらわないといけない、これ以上仕事を増やすなと。
 戸籍もない、真の出身地不明な彼女は、たまに言動がおかしくて完全に目を離せないのだ。

 身体を起こしたら、ミレイはミロカロスに冷やされたタオルを首にかけてきた。

「取り敢えず、何か飲みますか?
 ……ホンマはセイショクがええんですけど、今回はアクエリアスで勘弁して下さい」

 差し出されたペットボトルは見覚えのないもので、アクエリアスなんて飲み物は記憶には全くなくて。
 果たしてこれは飲んでも良いものなのかと考えていたら、ミレイは嘆息した。

「……ですよねー」
「何がだ」

 ミレイは鞄からコップを出すと、ペットボトルの中身を少しコップに注いだ。
 そして、そのコップを何のためらいもなくあおる。

「毒物じゃないです、味は飲み慣れんかもしれんですけど」

 再び差し出されたペットボトル。
 まぁ、毒だったならその時の話か。
 だてに暗殺者はやってない、毒には多少の耐性がある。

 アクエリアスという飲み物は、仄かに甘いような酸っぱいような不思議な味がした。
 別に毒が入っている味はしない、無味無臭だったら別だが。

「ありがとうな」

 手当てしてくれていたみたいだし、と思って礼を言う。

「ど、どういたしまして……」

 先程までのはきはきした態度はどこへやら、ミレイの返事は小さかった。



症。

(……にしても、ミレイの顔まで赤い。)
(こいつの方は大丈夫なのか?)


* * *

 シャインさん←ミレイを少しばかり意識。
 最近暑くて、何か実際にこういう事が起こりそうなのが怖いですよね…。



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