シロガネ山の麓に降り立ち、運んできてくれたカイリューのリュウガにお礼を言う。
 手持ちのポケモンの底力を上げるには、やっぱりある程度野生ポケモンのレベルも高い方が早いしね。
 チャンピオンロードでも良いんだけれど、こっちの方がいざという時にポケモンセンターが近い。
 ……ついでに、空に逃げる事も出来る。
 さて、今日も頑張るかと思ったところで……
「ミレイちゃん?」
「……んゆ? えぇと、はい?」
 聞き覚えのあるようなないような……男の子の声。
 ……取り敢えず、ウツギ博士でも、シャオさんでもないっぽいのは分かった。
 ターちゃんや珠ちゃんは女の子なので却下。
 ……んで、この子、どなた様でしたっけ?
 ああ、今のわたしの外見で、「この子」なんて言ったら失礼やな。
 わたしと同じくらいの年に見える、この人はだぁれ?
「……えっと……えええっと……」
 さっきの声、この外見から紡がれた言葉は何だっけ……。
『姉ちゃんがよくミレイちゃんの話しするから一度会ってみたくてつい声かけたんだよな』
 あ!
 思わずポムッと手を打った。
「珠ちゃんの弟さん!」
 そうそう、弟君!!
 なのは良いんだけど、名前、名前は……。
「……すみません、お名前……もう一回……。わたし、物覚えが悪くて……」
 自分の物忘れの早さに心底情けない気分になりつつ訊ねたら、弟君は苦笑した。
「宝珠アサギ。今度は覚えてくれよな」
「すみません……。今度はちゃんとメモしておきます」
 ごそごそと、鞄から黒表紙の手帳を取り出して書き込んでおく。
『•再び珠ちゃんの弟君に遭遇。
  ・黒髪碧眼。前髪の長さはきっとむぅに負けない。
  ・名前はアサギ君というらしい。目の色青っぽいし、それで覚えるべし。
  ・……てか、何で前回ちゃんとメモっておかなかったし私。』
 アサギ君はわたしがほちゃほちゃと書き込むのを待っていてくれた。
 うん、好い人だ。
「マメだなー」
「マメやないです……。ホンマにマメなら、一発で名前覚えてます……」
 今のところ、何故か会う人会う人に一発で名前を覚えられてる為、正直自分の馬鹿さ加減に泣きそうです。
 ……とは、流石に自嘲が過ぎるから、心の中で思うだけにとどめておく。
「前も言ったけど、敬語なんて使わなくて良いのに。
 それより、何でこんなとこにいるの?」
 一応、元大学生にもなれば、多少は初対面の前で猫を被るという悪癖がだな……とも、言えず。
 それよか、何か聞かれた気がする。
 こんな所……まぁ、確かに、普通の人は立ち入り禁止な区域ではあるよね。
 ……だから結構気に入ってるんだけど。
「え、何でって聞かれても……人が少ないし、野生ポケモン達が強いから……ですかね?」
 あれ、アサギ君の視線が冷たいぞ。丁寧語のせいかな?
 敬語を使うの嫌だっていう辺りは、姉弟やなぁ。
「一応オーキド博士に許可貰って入って……んねんけど、駄目……やった?」
「んー、駄目ってわけじゃないけど、今は、ね」
「今は……何か?」
「ん、姉ちゃんがシャインと技を磨きに来てるから、あんまりこの辺ウロウロしない方が良いよ」
「珠ちゃんとシャインさんが? へぇ……。確かにそれじゃ、邪魔しちゃアカンね」
 ていうか、ぶっちゃけ、下手に寄っていったら磨いてる最中の技に巻き込まれて命の危機に瀕しそうというか。
 言わない、言えないよ!
 この前、夏祭りで二人のバトル見て、ああ雲の上やなぁって思ったんだ。
 技を合体させるなんて発想、わたしには到底無理ですた。
「下手に邪魔して火炎放射を吹き飛ばされでもしたら、逃げただけじゃ逃げ切れへんやろうしな……」
「ははっ、確かに。
 ま、そんな訳だから。俺もついてきたのは良いんだけど、ここで待ってるんだ。巻き込まれたくないし」
「……見るなら完成形を?」
「もち!」
「楽しそうではあるんやけど、雲の上やなぁ……」
「どういう事?」
 アサギ君は無邪気に聞いて下さる。
「まず、あれには発想力が必要やろ。技の構想っつうかな。凍える風で葉っぱカッターの威力底上げするとか。
 んで、普通に技を放つんやないんやから、普通に技を出させる練習するよかよっぽどむずいと思うんよね。
 ……よっぽどのセンスがないと厳しいなーって思ってねぇ。ま、わたしには無理やわ」
「ミレイちゃん、やる前から諦めてちゃ何にもできないよ?」
 うん、それも一理あるんだけどね。
 ……今は諦めなくても良いんだって、ついつい忘れてしまうのはわたしの悪い癖の一つだ。
「……せやね」
 そう、わたしの悪い癖の一つ。
 頑張って直さないといけない……。
「そうそう! だからほら、他にどんな技を組み合わせたら面白いか、俺達も考えてみるってのはどう?」
 ……あれ、もしかしてわたし、気を遣わせてしまった。
 ちょーっと物思いに耽り過ぎたかな。
「うーん、せやったら……」
 だから、今は、余計な事は考えない。
 実際に、できるできないはともかくとして、考えるのはそれなりに楽しいもんね。


弟分妹分
を一生懸命追ってます。

「波乗りにダイビング隠すとかー、マッドショットにヤドリギの種を隠すとかー」
「隠すの好きだね?」
「いや、発想が貧困なだけ……」



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