※アサギ君(文中ではあだ名の「アー君」で登場)とミレイが既にある程度以上仲が良い事前提です。


 わたしが好きになる人は、大概が、既に意中の人がいる。
 そんな時、噂の段階でも、わたしはいつも、身を引いてきた。
 わたしは恋に恋する乙女。
 言い換えれば、愛を知らないお子ちゃま。
 恋愛感情を知らない分際で、本気の恋の邪魔なんてできない。

 ……と、まぁ、ちょっとシリアスになったって良いよね。
 わたしかて、むかーし昔はちょっぴりモテてたらしいんだけどね?
 今では立派な不審人物であるわたしに恋する物好きなんているわけない。

 ああ、暗いのは気にしないで。
 シャインさんがね、誰か女の子と電話してたんだ。
 わたしには絶対に見せない、嬉しそうな雰囲気で。
 そんなの見たら、わたし、ちょっと淋しくなってね。
 それで気付いて、それで諦めた。
 さようなら、わたしの片恋。
 今まで通り、好意は持ち続けるよ。
 でも、でもね……高望みして、すみませんでした。
 そういうのは多分お互いの為にならないし……わたし、これ以上ウザくならないように気を付けます。
 好意と恋は、一文字違うだけだけど大違いってね。

 競おうとは思わない。
 競ってまでして手に入れようと思えない時点で、まだ諦められるって事だもの。
 分かってて恋の泥沼に飛び込むほど、まだ人付き合い苦手症を克服したわけじゃない。
 普通の人付き合いすらマトモにできないわたしが、そんなことしてどうするの。

 諦める、今なら気持ちを別の方向に持って行ける。
 でもね、フラれた気分にはさせて下さい。
 それくらいは良いよね、誰も見てない場所でなら。
 ケジメは大事、恋と思う気持ちにケリはつけなきゃ。

「……かな? うーん、もう一回だけ呼んでみるか。おーい、ミレイ?」

 ……え。
 さっきまで、誰もいなかったよね?

「うわっ、ちょ、どうしたのさ!」

 黒い髪を揺らして、覗きこんでくるのは青い瞳。
 ああ、彼は。

「……アー君。アー君こそ、どしたん?」
「姉ちゃん探してたんだけどさ。見掛けた?」

 ……珠ちゃん?
 また迷子になってるのかな?

「んー、ごめん。今日は見てへんなぁ」
「そっかー。まったくもー、どこ行っちゃったんだろ。
 ていうかさ、ミレイ、何かあった? すっげテンション低くないか?」

 ……。

「んんー。強いて言うなら、現実に打ちのめされてる」

 嘘は吐いてない、と、思う。
 ていうか、嘘吐いても、何故かすぐバレちゃうんだよね。
 分かりやすいって言われるのさ……。

「まーた何か隠して……。溜め込むなって言ってるだろ?」

 ……ほら、バレた。
 心配させちゃったんだろうな、でもね。

「今回はマジでわたしの問題やから。アー君出る幕無し」
「うわ、ひどっ」

 きっとわざと大振りなリアクションをとってくれたアー君を見て、ちょっと気分が浮上した。
 わたしに恋する物好きなんている筈ない、でも。
 この世界は今のところわたしに優しくて。
 こうして、わたしの人付き合い苦手意識を打ち砕いてくれそうな相手もいるんだ。

「えへへ、心配してくれてあんがとー。嬉しいな」


心にが降った後は?


 よし、また後で落ち込むかもしれないけど、一旦気持ちを切り替えよう。
 さっきアー君は珠ちゃん探してるって言ってたし、手伝いと称して走り回るのも悪くない。



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