夢を渡る少女。

 誰かに呼ばれた気がして、意識が浮上した。
 ……やっべ。わたし、もしかしなくてもウトウトしてた!?
「ふにゃっ!? は、はい!?」
 反射だけで返事したけど、わたし、今まで何してたんだっけ。
 周りを見渡せば、そこは……。
「何でミレイがこんなところにいるのさ?」
「……え、えーと……?」
 森の中だ。
 うん、どう考えても、森の中だ。
 そこをキノココが走ってるし、あそこでナマケロが木にぶら下がってるし……。
 あ、カラサリス発見。
 …………。
 おかしいな、わたし確か、シロガネ山の麓のポケモンセンターにいたと思ったんだけどな。
 ラジオを点けた覚えもないし、カントー・ジョウト系のポケモン見掛けないし、ここはもしかして、ホウエンのトウカの森……?
「あっちゃー……」
 やっちまったぜ。
 夢渡りだ。
 何たって、目の前にいるのはアー君(アサギ君)だ。
 思い出したよ、さっきまでわたし、アー君の事考えながらプロミスリングもどきの飾り紐編んでたよ。
 さて、この、誰か仲の良い(というかとても気になる)相手の事を考えながら寝てしまうと、その人の近くに半幽体離脱的に飛んでしまう便利なんだか不便なんだか分からない体質をどう誤魔化そう。
 最近じゃ、実体付きで飛んでしまうから、余計にややこしい。
 本体が目を覚ましたら、抜け出してた意識も本体に戻るけどね!
 その意味ではラッキーだ……今回はシロガネ山の麓っていう邪魔の入らない場所で寝てる筈だから、途中でいきなり消える事もないだろう。
「無意識のうちに、ついフラフラと?」
 アー君に返事しない訳にもいかないので、取り敢えず無難に無難に答えてみる。
 だけどこれじゃまるで……
「ついにわたしも珠ちゃん化してきたか……物理法則を超越した迷子的な意味で」
 突っ込まれる前に、自分でぼやいておくよ。
 アー君は優しいから、ここまで言っちゃえば深く追及してこないと思うんだ。
 ……あー、わたし、悪い子。
「物理法則を超越……。やっぱミレイから見ても姉ちゃんの迷子はそうなのか」
「探す羽目になるアー君は大変やよね……。もしかして、今日も探してる最中なのお邪魔しちゃった?」
 よしっ、何とか話を逸らす事に成功した……筈!
「うんにゃ、今は姉ちゃん会議中」
「そっかー」
 ――くきゅるるるー。
 ……今、わたしは何も聞かなかった。
 聞かなかったんだから!!
 ちくせう、ただでさえおやつ時間近に寝ちまったもんだから、お腹が……!
「……」
「アー君、笑いなぁよ……。笑うの我慢するのは身体に良くないで?」
「あっははは! ミレイは相変わらず百面相してて面白いなぁ」
 思考の大半が顔にダダ漏れのわたしは、見る人から見れば百面相が面白いらしいです、はい。
 さっきのも、途中から顔が熱かったから、きっとそのタイミングで赤面してたんだ……。
「アイスでも食べに行くか?」
「うん、そうしよっかな……」



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