世の中なんて不条理だ。

 ――どこだここは。

 真っ白なモヤモヤの漂う、全く見通しのきかない空間。
 上も下もなく、前も後ろもなく、本当に、ただ真っ白な。

 どうして俺はこんな所にいるんだ?
 ひとまず、記憶を辿ってみよう。

 そう、朝から普通に大学に行って。
 友達と何て事はないお喋りをしたりして。

 ――ああ、地震が起こったんだっけ。

 きっとニュースになること間違いなしな、立っていられないほどの地震。
 当然、俺達は揺れが収まった瞬間に、その次の災難を予想した。

 津波だ。
 津波が来る。

 だから走ったんだ。
 力の限り、心の限り、ただひたすらに、逃げようとして……



「気持ちの整理はついたかい?」

 ――!!
 誰だ!?

 周りを見渡そうとすれど、やはり何も見えなくて。

「いや、ボクの方からしたら、キミが誰だって感じだよ~。
 ここは輪廻の間じゃないよ?」

 ……嫌な言い方だな。
 まるで俺が死んだみたいn
「うん、キミ、死んでるね。」

 思考に割り込まれるかのような肯定に、俺は耳を疑った。

 ……ナンデスト?

「少なくとも、魂だけの状態だ。
 必死に逃げすぎて、キミの身体は置いてけぼりにされたんだね。」

 謎の声は親切にもそう説明した。

 身体を置いてけぼりにした?
 津波の目の前で?
 ああ、確かにそれは死んでそうだ。

 ……非常にやるせないが、せめて苦しまずに逝けた事が不幸中の幸いか。
 逆に実感湧かねーのが難点だけど。

「ふふっ。
 キミ、面白いね。」

 そういうアンタは誰だよ、さっきから。
 姿すら見えねーんだけど?
 ってか、さりげなく、俺の心読んでね?

 声を出す事が馬鹿らしいので、心の中で悪態を吐く。
 案の定、相手はそれすらも読んできた。
 そして、俺の予想の斜め上を行く回答を下さった。

「まぁ、ボクは所謂カミサマだもんね☆」

 ハァ?
 うわぁ、うっぜ!
 っつうか、あいたたた、だな。
 そんなおちゃらけた神なんているか!
 いまどき語尾に☆とかつけるか、普通?

「キミがそういうのをイメージするから悪いのさ。
 それより、キミがあんまりにも面白いから、ちょっと実験に付き合ってもらうよ。」

 ……は?
 何か変な言葉が聞こえた気がするぞ。
 今なんと仰いましたか?

「も~、現実逃避するなんてヒドイな~。
 ボクの実験に付き合ってもらうのさ♪
 ボクが管理してる世界が他にもあってね、そこでも問題が持ち上がってるんだな~。
 だから、キミにはそれを解決するための実験台になって貰います!」

 何か色々とツッコミ所があるが、何で俺が!
 しかもどうして実験台なんて物騒な単語が出てくる!?

「キミ見てたらインスピレーション湧いたから!
 魂だけ天界に辿り着くくらい必死に逃げるって、どんだけチキンなんだよって感じ?
 ふふっ、文句は聞かないよん?
 ボクの期待を裏切らないでよね。
 んじゃ、レッツ☆ゴー!!」

 お、横暴だ!
 人の事散々言いたい放題しやがって、挙句の果てに拒否権も無しかよ!?

「だってボク、神様だもんね~♪」

 神様なんてくそ喰らえだー!!!
 つか、せめてもう少し詳しい説明くらい……!


 力の限り叫んでみたつもりだったが、それ以上声は聞こえず。
 そこで、俺の意識は途切れた。


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