『創造主』 01

「……ふん、一週間かぁ」
 メールにざっと目を通し、フェイは面白くもなさそうに吐き捨てた。
「一週間で引き払って投降するなら命だけは保障するってさ! 『考える猶予を一週間やる』……はん! あいつら何様のつもりだっつうの」
 不安そうな表情の雇われ助手等に、シッシッと手を振って見せる。
「ほら、聞いたでしょ!? 出ていくなら今のうちだよ、とっとと行った行った!」
 ざわめきが広がり、蒼い顔に心なしか少しほっとしたような表情を浮かべたかつての助手等は、我先にとかつての雇い主を見捨て、飛び出していく。彼等は、これ以上この若いマッドサイエンティストと関わり合いにならなくて済むことを神に感謝しているに違いない……仮に神がいるとしての話だが。
 急にガランと人気の減った研究所の会議室に、小さな足音が響いた。
「……リュージュ。君は行かないの?」
 リュージュ、と呼ばれた子供は、一瞬振り返って入れ違いに出ていった人々の背中を見、首を振った。
「……本当に見逃してくれるとは思わない」
「まさか! 僕じゃあるまいし。リュージュは数少ない成功作なんだから、壊されることはないと思うよ。逃げなよ」
 リュージュは答えず、逆に尋ね返した。
「フェイはどうするつもりだ?」
「僕? 勿論逃げるに決まってるじゃないか。こんな所であっさり殺されてやる程、人生悟ってないよ」
「本当か?」
 二十歳を過ぎたばかりの科学者は、顔をしかめて外見十三歳の子供を見下ろした。
「何さ。言いたい事があるなら、はっきり言えよ」
「フェイは生身の人間だ。それでも、あの軍から生きて逃れられると?」
 痛い事実を指摘してくる自らの『作品』に、フェイは笑いかけた。
「なぁに、一週間もあるんだ。何か考えるよ。あ、僕を連れて逃げようとか言うなよ? いくら君でも、足手まといを抱えちゃ……」
「そうしたら、誰が自分の面倒を見てくれるんだ? 自分は嫌だぞ。これ以上、身体をいじくり回されるのは」
「それって単なるこじつけじゃん」
 尚も言い募るリュージュに、演技ではなく苦笑がこぼれる。
 本当に、優しすぎるのだ。らしくなく。もしくは……我が儘なのか。
「いっそ、僕も君みたいだったら……」
 フェイは何かに気付いたかのように、言葉を切った。
「……そっか。その手が……」
「? ……フェイ?」
 不思議そうな表情のリュージュに構わず、考え込むフェイ。
「でも、時間がないな。人手も……見込めそうにないし……」
「何か思い付いたのか?」
「ちょっと、ね。ま、どうせ一人じゃできないから……」
「なら自分が手伝う」
「……リュージュ。君には辛いと思うよ?」
「フェイがいなくなるよりマシだ」
 フェイは首を振った。
「僕はいなくなるよ」
「!?」
「僕という人間はね。最期の『作品』を作ろう。生贄には……僕がなる」


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