『創造主』 02

 物流の途絶えた研究所には、限られた材料しか残されていなかった。かき集めてきたそれらを見下ろして、フェイは溜息を吐く。
「これじゃあ僕、若返るしかないな。骨格なんて、リュージュのとどっこいどっこいのしか作れそうにないよ」
「……光電池はこれでいいのか?」
「ん、ありがとう。確認するからそこに置いといて。……うわぁ、微妙な色! 確かにこれで合ってるんだけど」
 目に毒々しいほど鮮やかな青翠色の繊維束を手に、げんなりとするフェイ。
「染める時間はなさそうだから……いっそ脱色しちゃおうかなー。あーあ、カメラも原色で使わなきゃいけないのに」
「赤いのと青いのがあるが?」
「パッと見て左右どっち用か分かるように、元々色分けされてるんだよ。両方使うからね」
 グラリ。唐突に目眩が来て、フェイは慌てて机に手をつき、何とかやり過ごそうとする。彼の頭には、脳の活動をコピーする為の装置が既に乗っていて、フェイという青年の精神を一生懸命吸い取り、機械に写しているのだった。
「……思ったよりキツいな。道理で皆、大人しかった筈だ」
「まだ大丈夫か? フェイ」
 経験者として身に覚えのあるリュージュは、フェイの異変を見逃さなかった。
「暫く座っててくれ。あとは筋繊維だろう? 場所は知ってるから」
 フェイはリュージュを引き止めた。
「いや、それももう用意したから」
「え?」
「もっと収縮力のあるやつ、開発したんだよね~。僕だけ何もないのは腹立つから、使ってやるんだ」
「……フェイ!」
 こんな時にまでそんな事を言い出すフェイに、リュージュは呆れた。
「まあまあ、そんな顔するなよ。まだ組み立てを手伝ってもらわなくちゃいけないのに」
「だって……!」
 リュージュは尚も言い募ろうとするが、フェイもこれ以上聞きたくないとばかりに耳を塞ぎ、リュージュの抗議を無視した。
「あー、はいはい。取り敢えず今は時間がないんだから。ね?」
「……」
 リュージュは膨れっ面をするしかない。
「だからそんな顔をするなって。設計図は……これとこれを使うか」
 二枚の図面を見ながら、フェイは新たな紙に作図を始める。そのスピードは、プロですらこんなに早くは描けないだろうと思わせる程だ。
 天才マッドサイエンティストの、天才たる所以である。
 程なく設計図が出来上がり、二人はそれに従った組み立て作業を始めた。
 迫る期限、足りない人手、精神を消耗していく設計者。そんな、圧倒的に恵まれない環境の下で。


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