雪に誘われしとき トキ編01

 ――強いて言うなれば、それは、嘆き疲れた者の絶望の怨嗟。

 兆候は、ありました。
 あったのです。
 南から流れてくる、ひんやりとした冷気。
 けれど、確信を持てたのは、お姉様が依頼を受けてから。

 ……もし、もっと早くに、気付いていれば……。
 今でも、後悔することがあります。
 けれど、所詮は「たられば」の話。
 お姉様も、彼等も、そう言うのです。

 その街に着いて、何かがおかしいなと思うのに、時間は一日も掛かりませんでした。
 暗い雰囲気、とまではいきませんが。
 あからさまに沈んだ雰囲気でもなかったのですが。
 こう、活気がほんの少し……ですね。
 それと、何か、物足りないような違和感が。

 お姉様が受けたのは、研究所の偵察。
 偵察? ……と、お思いになるでしょうか。
 わたくしも、最初は首を傾げました。
 諜報、ではないのですね、と尋ね返したくらいです。

 どうして、武人であるお姉様が……。
 その思いを読み取ったかのように、お姉様が説明してくださったことによると。
 その研究所、どうやら、かなりマズイことをやっているらしかったのです。
 研究に、規制なんてものがあったとは記憶していなかったのですが……。

 勿論、全てが終わった今ならば、言えます。
 アレは……あの研究は……潰されて、しかるべきであったと。
 ……あまりにも、神と命を、冒涜していたと。
 けれどその時のわたくしはあまりに無知で。
 ……無垢で、純粋であった、とお姉様は言いますが、無知で。

 研究所のあると言われる方向が冷気に流れてくる方向に一致し、嫌な予感が確信に変わる中。
 ぐずるわたくしを連れてお姉様が南に向かったのは、依頼を受けた翌日の事でした。
 ねぇ、もしも、わたくしがぐずっていなかったら……。

 ……それこそ、「たられば」の話だと、怒られてしまいますわね。
 お姉様にも怒られそうですけれど、彼等の中には泣いてしまう子もいるかも。
 ああ、やはり、そうそう忘れられないものですわね。
 彼等との出会いは……。


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