――強いて言うなれば、それは、嘆き疲れた者の絶望の怨嗟。
兆候は、ありました。
あったのです。
南から流れてくる、ひんやりとした冷気。
けれど、確信を持てたのは、お姉様が依頼を受けてから。
……もし、もっと早くに、気付いていれば……。
今でも、後悔することがあります。
けれど、所詮は「たられば」の話。
お姉様も、彼等も、そう言うのです。
その街に着いて、何かがおかしいなと思うのに、時間は一日も掛かりませんでした。
暗い雰囲気、とまではいきませんが。
あからさまに沈んだ雰囲気でもなかったのですが。
こう、活気がほんの少し……ですね。
それと、何か、物足りないような違和感が。
お姉様が受けたのは、研究所の偵察。
偵察? ……と、お思いになるでしょうか。
わたくしも、最初は首を傾げました。
諜報、ではないのですね、と尋ね返したくらいです。
どうして、武人であるお姉様が……。
その思いを読み取ったかのように、お姉様が説明してくださったことによると。
その研究所、どうやら、かなりマズイことをやっているらしかったのです。
研究に、規制なんてものがあったとは記憶していなかったのですが……。
勿論、全てが終わった今ならば、言えます。
アレは……あの研究は……潰されて、しかるべきであったと。
……あまりにも、神と命を、冒涜していたと。
けれどその時のわたくしはあまりに無知で。
……無垢で、純粋であった、とお姉様は言いますが、無知で。
研究所のあると言われる方向が冷気に流れてくる方向に一致し、嫌な予感が確信に変わる中。
ぐずるわたくしを連れてお姉様が南に向かったのは、依頼を受けた翌日の事でした。
ねぇ、もしも、わたくしがぐずっていなかったら……。
……それこそ、「たられば」の話だと、怒られてしまいますわね。
お姉様にも怒られそうですけれど、彼等の中には泣いてしまう子もいるかも。
ああ、やはり、そうそう忘れられないものですわね。
彼等との出会いは……。