そらに芽吹くとき トキ編07

 ……本当に、あの出会いは印象的でした。
 布団に潜り込み、わたくしを抱き締めて離さない彼等を見ながら、思います。
 閉じられた瞼の下は、今は何色を秘めているのでしょうか……。
 どの色でも美しいですし、その持ち主は誰もが魅力的。
 わたくしは、そっと彼等の額に唇を寄せました。

 彼等の身体中に走っていた継ぎ接ぎの痕は、頑張って癒した甲斐があってかなり薄れましたが。
 こうして、あの時のようにわたくしを抱き締めないと不安定にあるあたり、まだ、傷痕は深いのです。

 あの後、狂い、堕ちてしまったモノをお姉様が一掃し。
 彼等を彼等たらしめた極悪非道の研究は、実験場の瓦礫の下に封印されました。

 ……何が極悪非道だったのかって、聞かれそうですわね。
 神と命を冒涜していた、あの研究の内容。
 あまりにも重くて、当事者でもないわたくしが口にしても良いものか、と思うと、とてもとても。
 アレを語る資格があるのは、彼等だけでしょう。
 今は傍にいない、幕引きを手伝ったお姉様にも、あるのかもしれませんが。

 そう、お姉様は、もう傍にはいないのです。
 彼等が満足に動けるようになってから、お姉様は行ってしまわれました。
 もう大丈夫ね、と。
 今頃は、どこの空の下、旅をなされているのでしょうか。
 どこの空の下、誰かを救っているのでしょうか。

 きっと、また誰か……いたいけな女の方を、誑かしているに違いないですわ。
 本当に、罪作りなお方……。
 ふふ、でも、そうでなければお姉様とは言えませんわ。

 残されたわたくしたちは、別れを告げられた街の隅で、今も暮らしています。
 お姉様を追って旅をすることも、恐らく無理をすれば可能だったでしょう。
 けれど、そうすれば、わたくしはやがてお姉様に溺れ、縛り付けようとしてしまったかもしれません。
 そんな不健全なことをしてお姉様を困らせるのは、本意ではないですわ。
 ……お姉様の心には、わたくし以外の誰かが住んでいらっしゃったのですもの。

 もうすぐ、夜が明けますわね。
 わたくしまで、あの時のことをこんなに鮮明に思い出すなんて……。
 大丈夫かしら、何かの兆候でなければ良いのですけれど。
 それとも、彼等がまた、魘されたのでしょうか。

 嘆き疲れ、絶望に全てを諦めようとしていた彼等を引き留めたのはわたくし。
 残酷なだけの世界と、思ってほしくなかった。
 優しくて美しいモノを、知ってほしかった。
 今から思えば、わたくしのワガママで。
 それこそ、非常に惨いことをしたのかもしれないと、思うこともあります。

 彼等が魘されることがあるのは、強いて言うなれば、嘆き疲れた者の絶望の怨嗟。
 けれど、それでも、わたくしは彼等に……。


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