「魔の島の調査？」
思わずそのまま復唱してしまう程度には、厄介な依頼。
「そう呼ぶ気持ちも解るがな、『聖域』の異変の調査だ。」
恐らく、俺と同じくらい……いや、俺よりも深い皺が刻まれた、ギルド長の眉間。
「一緒でしょう。そりゃあ、かつては聖域だったのかもしれませんが、今のあそこは魔物で溢れ返ってる。魔の島と呼ばれたって、普通に通じますよ。」
そう、かつて『聖域』と伝えられた島があった。その小ささに反して、豊かな環境を備えた島。
新たな命の揺り籠、楽園、等々、天国のような役目を果たしていたと言われるその島は、けれど今、言葉通りの魔境と化している。魔物が徘徊する、危険極まりない魔の島だ。
ただでさえ、最近は絶好調とはいかないのに、このギルド長は俺に死ねと言っているのだろうか？
「頼む、この通りだ。最近、調子を崩している奴等が多くてな、誰も依頼を引き受けてくれない。本当はまだ学生のお前には頼みたくなかったんだが、もう残っている二つ名持ちがお前しかいないんだ。」
手を合わせ、頭を下げてくるギルド長の頭を睨む。
こんなに真剣に依頼をされるのは久しぶりだが、俺だって命は惜しい。
「俺だって、そんな絶好調ではないのに、第一、学校はどうするんですか。」
「もうすぐ春休みだろう？ 来週からの期末試験は免除してもらうから、試験期間と春休みを使って行ってくれ。」
校長の許可は貰った。そう続けられると、もう外堀は埋められたようなものだ。
大きな息を一つ。
「相方に聞いてみないことには、何とも言えません。」
大事な使い魔、白銀の竜、シルフィアナ。絶好調とは言えない俺以上に、最近様子がおかしい彼女。
唸り声を上げることが増えた。思い詰めた様子で俺を見ることも。
俺の魔法だけでも何とか魔の島でサバイバルはできるだろうが、シルフィアナの調子が良ければもっと楽にいくだろう。まず、島へと自力で飛んでいくのか、乗せてもらえるかだけでも。
俺が頭の中で検討し始めたのが気付かれたのだろう。ギルド長の雰囲気が、少し緩んだ。
「ああ、因みに報酬だがな。お金と魔鉱石、どちらでも好きな方を選べ。」
「……随分、太っ腹ですね。」
魔鉱石は、同量の金よりもずっと高価なものなのに。そんなものが報酬になること自体が依頼の難しさを物語っており、俺は憂鬱な気分になった。
俺の眉間に再び皺が寄ったからか、ギルド長が焦りだす。
「流石に来年度の全試験免除ができなかったんだから、これくらいはな！」
この人は、相変わらず、俺の気持ちが解ってない。
俺が再び嘆息したところで、きっと仕方のないことだろう。
確かに、昔は特別扱いに快感を得ていた。それは認めよう。
だが、過ぎた特別扱いは、厄介事だらけなんだ。
もう俺は、出しゃばって目立ちたくないんだよ。