お祭りと異世界人。
岩陰で、腰まで水につかった状態でぼんやりと座り込んでいる女性は、ミレイよりもかなり、老け込んで見えた。
何だかとても、疲れ果てたような、世の中に希望を見出せていないような、何もかもを諦めざるを得なかったかのような、ゲッソリとした面持ちの女性。昏い瞳には、何の光も映る事はなく。
無機質な雰囲気は、近付くなと暗に告げている。何ものとも今は関わりたくないのだと、拒絶している。
だが、岩にもたれかかって放心している彼女しか、ここにはいなかった。
「ミレイちゃん?」
半信半疑で、シャオは彼女に声を掛ける。
女性は、焦点の合っていなかった目を、機械的に声のする方へと向けた。
そして次の瞬間。
「あ、シャオさん! どうしてこんなところにいるんですか?」
にっこりと笑顔で返事した彼女は、一気に若返ったかのようだった。印象にして、十歳分以上は、確実に若く見えるほどに。
そこには、ミレイがいた。
シャオは、拍子抜けした。同時に、少し、警戒もした。
「……お前こそ、こんな所で何してんの?」
「え、見ての通り、涼んでるんですけど……。あーもう、ここなら誰も来ないと思ったから、今日は髪の毛すっごく適当に括っちゃったじゃないですか」
言葉の通り、今日のミレイは髪を後ろで一つに括っていた。そのせいだろうか、普段と同じ表情に戻ったようにも思えるのに、何故かいつもより、ほんの少し、大人びて見えた。
「こんな所でぼんやりしてねーで、デート行かね? 今日はクチバの辺りで祭りがあるだろ」
「えっ、そうなんですか!? お祭りあるんですか! デートは全力で却下ですけど、お祭り行くのは構いませんですよ」
心なしか目を輝かせて、ミレイは、もしかしたら初めて、シャオに譲歩したような返事をした。
「んじゃ、行くかー」
シャオは、彼女が立ち上がるのに手を貸すつもりで、片手を差し伸べる。
しかしそれを見た彼女は、びくっと恐怖に身体を震わせ、次に来る衝撃に耐えるように、歯を食いしばり、目を瞑った。まるで、殴られるのを分かっていて、それでも逃げられないとでもいうように。
素人の動きを見切れないシャオではない。ミレイの動きが、そういう意図のものだと、見れば分かった。
「おい?」
「……ご、ごめんなさい」
蚊の鳴くような声での返事。
『わたし、ここの人達が概ね平和なの、好きなんですから』
初めて会った時の彼女の言葉が、重苦しく思い出される。その言葉に、先程の放心していた彼女の顔が重なった。
「すいません、ちょっとビビってしまいました」
シャオが何か言う前に、今度はややしっかりとした調子で謝罪を繰り返すと、ミレイは自分で立ち上がった。
「それじゃわたし、すぐ着替えてきますね。なるたけ早く戻ってきますから」
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