異形。
そう形容するに相応しいモノが、荒野を闊歩しているのです。
それは、わたくしの知らぬ現実でした。
お伽噺にしか聞いた事のないような世界。
わたくしは、本当に、籠の中の小鳥だったようです。
ポッと音がして、またすぐそこにいた不思議な生き物が燃え上がりました。
あるモノは紅い炎、またあるモノは青白い炎、本当に不思議です。
「見惚れていられるなら、大丈夫かしら?」
斜め前を歩く女性が何事かを言いましたが、周りを見回すのに夢中なわたくしの耳にはよく聞こえませんでした。
「す、すみません。何か仰いましたか?」
「この炎、どう見える?」
どう、とは……。
「……不思議、ですが。炎そのものは綺麗です。
でも、炎の基になっている不思議なモノは、少し『気味が悪い』かも……」
言葉では巧く説明できないのですが、あまり近寄りたくないような、そんな雰囲気のモノ。
そんなモノが燃え上がって炎になると美しく感じるのだから、不思議としか言いようがありません。
「『気味が悪い』……ね。その感覚は大事よ」
未だローブのフードを目深に被る女性の視線が向かう先はわたくしには読めませんでした。
彼女は、何かを見付けたようで、わたくしを振り向き、手招きをしました。
「あの雑草、放っておくと厄介なの。わかる?」
「ざっそう……ですか?」
確かに、寄生木が地面に落ちたかのような茨の塊が見えます。
あまり大きなものではないのですが、どう表現すれば良いのか、その……近寄りたくないというか、それこそ『気味が悪い』です。
「そうよ。雑草なの。
……そうね、ちょうど良いかもしれないわ。あの雑草、根こそぎ抜いてしまいましょう?
貴女にも抜けると思うのだけれど……」
えっ、と声を上げる前に、優しい動作で腕を引かれ、その不気味な塊の前に押し出され。
あ、と思った時には、塊の方から、鞭のように枝が飛んできて……
悲鳴を上げる間もなく、両腕が頭の上で縛り上げられ、胴にも何かが巻き付き息を詰まらせ、背を弓なりに反らせた不自然な体勢で絡めとられてしまいました。
カフッと聞こえてきたのが自分の息だと気付いた時には、既に身動きの取れぬ状態。
首筋をチロチロと這う蔓が、本来ならばくすぐったいのでしょうけれど、今はそれすら苦しくて、頭がぼんやりとしてきます。
生理的な涙の溢れる滲んだ世界の中、隣の茨に蒼い薔薇が咲きました。
次々と連なって、蒼い飾りが頭上まで。
花に誘われたのでしょうか、蝶のような蛾のような、これも『気味の悪い』モノがふわりふわり。
……ああ、なんて、『気味が悪い』のか。
思ったときに、ポッと、燃え上がる音。
袖の先で、先程の虫の羽の色のような、薄紫色の炎が揺らめいて。
ぼやけた視界を覆い尽くす、鮮やかな蒼い炎。
力の入らぬ身体を支える、確かな腕の感触。
音など耳に入れる余裕もなく、意識が闇に落ちました。