そこに広がっていたのは……正しく、地獄絵図と言って差し支えなかったでしょう。
地獄、という言葉で想像される光景が、宗教によって異なることは百も承知で……敢えて、言わせていただきました。
いえ、それどころか、本物の地獄よりもいっそ残酷で醜悪であったでしょう。
もしも言葉通りの地獄であれば、彼等はそこにはいなかったでしょうから。
そう、悪人を裁くために存在するのが、本来の地獄の役割であるならば。
如何にわたくしが世間知らずで箱入りだったと言えども。
壁に咲く鮮やかな彼岸花が、錆び付いているのを見れば。
人工的な蜘蛛の巣が、風の唸りで欠片を落としながら広がるのを見れば。
糸の切れた操り人形が、子供の粘土細工の成れの果てが、無造作に打ち捨てられているのを見れば。
ゆうらり、ゆらりと枯れ尾花。
それは本当に枯れ尾花?
悪魔の玩具箱に迷い込んだわたくしたちは、彷徨って、彷徨って。
お姉様は淡々と歩まれますし、声を出しての会話など、恐ろしくて試せませんでした。
わたくしは、精神が少しずつ蝕まれていくのを感じながらも、何も言えなかったのです。
少しずつ違う、けれども本質的には全く変わらぬ、四角く無機質な監獄が続きました。
生命の息吹など無く、果てなき迷宮に囚われたような錯覚すら覚えました。
堕天使の箱庭の奥深く、秘密の花園まで辿り着いた頃には、現実感が擦り切れそうで。
既に使い物にならなくなっていた嗅覚同様、摩耗していた感情を麻痺させ、心に忘却と現実否認の鎧を纏いそうになっていた、その時。
再び、響いた衝撃。
悪霊の哭き声。
灯が、またほんの少し、けれども一つではなく幾つも、薄れていった気配。
打撃を受けた魂が、罅割れるかと思いました。
けれども、纏いかけていた鎧を完膚なきまでに粉々にされ、吹雪に晒されたからこそ、見えたものがあったのもまた事実。
それは、お姉様が何故引き返さなかったのかにも、深く係ること。
粘り付くような悪夢の中で揺らめき足掻く、幽かな灯。
底なし沼に沈んでしまう前に……。
たとえ汚泥にまみれようとも、お姉様はそうと決めた相手には手を差し伸べるのです。
かつて、わたくしを籠から解き放ったように。
嵐の前の静けさが、終わりを迎えようとしていました。